格子の向こうから見える世間の話。
質屋の店主が日々の仕事を通して語る独り言をお聞きください。


運動会とビデオカメラ


 近頃機械製品は扱わない質屋も増えているようですが、当店ではパソコンでもデジカメでもDVDでもお取り扱いいたします。デジタルビデオカメラなどは市場価格が10万円以上するものもあり、ご家庭の財産でもあるのでしょうけど、子供の運動会以外あまりお使いにならない家庭も多いようで、使わない時期に当店にお預けされるお客様もいらっしゃいます。当店でも秋になりビデオカメラの出質が増えてくると運動会の季節なんだなぁとしみじみ感じる次第です。
 昨年もビデオカメラを質入れしているお客様から、受け戻したいとの電話がありました。
「明日の朝、出しに行きますけど、9時からの運動会に使いたいので、8時半に行ってもいいですか。」
 当店の開店時間は午前9時なのですが、親にとって子供の運動会がいかに大切かは充分承知しておりますので、 
「いいですよ。開店は9時なんですけど、8時半に店の前で待っています。あっ、でも朝いらっしゃるなら電池を充電しておかないと、すぐには使えませんよ。」
「あっそうね、そうよね充電しておかなくちゃいけないのよね、お父さんがいた頃は、こういうの詳しかったんだけど、私は全然わからなくって…。」
 私は奥さんのその一言で、勝手に旦那さんが亡くなられたものと解釈して、
「じゃあね、充電はウチでやっておくから、テープを用意してください。ヨドバシとかコンビニでも売ってるけど、“デジタルビデオのテープ”って言って買ってくるんだよ。“8ミリ”もあるけどこのムービーは“デジタル”ですから。」
「はい、わかりました。デジタルですね。ほんとにお父さんさえいてくれたら…。」
 また亡くなられたご主人の話になりそうでしたので、奥さんの話をさえぎるように、
「あっ、それから電池が古いから、充電してもすぐになくなっちゃうかもしれませんから、液晶はなるべく開かないで、ファインダーで見るようにね。」
 と言ってから『しまった専門用語を使ってしまった。』と思ったのですが、
「えっ、ファインダーって何ですか、お父さんさえいてくれたら…。」
 …とそれを制するように、
「あっ、いや明日説明しますから、8時半ですね、お待ちしていしますよ。」
 と言って電話を切りました。それから電池を充電して次の朝、早朝出勤して、八時半にお店の前で待っていると、
 なんとその方の旦那さんがいらして、
「いや〜、すみませんね。たかが息子の運動会なのに女房がどうしてもって言うもんだから、出張を一日早く引き上げてきましたよ。」
 てっきり旦那さんが他界したのかと思っていた私はあっけにとられながらも無事お渡ししたのでした。天気は快晴。絶好の運動会日和でした。



昔の質屋の大晦日


 近頃の質屋では12月31日大晦日を休みにしているお店も多いようですが、私がまだ小学生だった頃の大晦日はそれこそ夜中の2時、3時まで営業していました。年内の借金は年内にケリをつけておこうという気概の方も多くいらっしゃいましたし、質屋に預けた一張羅を着て正月を迎えようというお客様も多かった時代です。12月31日は朝から行列が出来るほどの大忙しなのですが、それに加えて、
「預けている背広を明日着たいから、アイロンを掛けておいて下さい。」
 などと電話してくるお客様もいて、うちでも当たり前のようにせっせこアイロンを掛けてお待ちしておりました。
高度成長期を経て、バブルの時代になると最後のお客様がいらっしゃる時間がどんどん早くなり、今では午後7時を過ぎると町中を見回しても誰も歩いていない感じです。みなさん家庭で紅白歌合戦でも見ながら過ごしているのでしょうね。


不況で質屋は儲かるか?

「不景気だと質屋は儲かるでしょ、」
 というご質問はよく聞かれます。日常の仕事が儲かっているか、儲かっていないかなどは、他人様にはあまり言いたくないところ。とりあえず「ボチボチでんがな。」とか言ってその場をごまかしますが、正直な話、不景気には質屋もダメです。
 不景気なときは庶民がお金に苦労するから、質屋を利用する人も増えるだろう。景気がよくなると懐が暖かくなって質屋を利用する必要が無くなるだろうというお考えでしょうが、不景気になると皆さんお金を使わなくなりますね、景気がいい時はパチンコや競馬に2万も5万も使っていた人が、不景気になると使うお金も少なくなりますし、そうした娯楽にお金をかける人自体少なくなってきました。それから不景気が長く続くと、みなさんイイ品物を既に手放してしまっていて、もう高い値段が付く品をお持ちでなくなってしまったようです。今回の不景気では物の価値が下がってしまい、お客様が景気がいい時に高く買われた品の価値が落ちてしまったので、こちらも査定価格を言いにくくて困り果てました。まったく、私たちも景気の回復を心待ちにしております。


神奈川質屋クラブ



井出質店,平野屋,つるや質店,第一商事,正木屋,伊東質店,楠本,渡田,長谷川質店,いすず,綱島質店,カドヤ商事,神奈川,矢崎質店,天王町質店,丸滝,かぎや,河田質店,浜一,扇屋,山田質店,岩田質店,富士屋,杵屋,丸徳,ひかわ質店,カドヤ,マルカツ,鎌倉市民質屋,大和屋,片岡質店,谷川質店,丸幸,湘南コレクション,みかどや,和田屋,セブン質店,小林商事







nisemono

ニセモノは許さない!!

 偽ブランド品、コピー品、レプリカ品など、言い方は違いますが、本物そっくりに真似て作られたニセモノが氾濫しています。繁華街の露店で売られているものから、海外旅行のおみやげ、インターネットのオークションサイトで売られている物もあります。若い人達の間では高級ブランドのコピー品を「バチモン」と言って、持つ事をひとつの流行のような感覚で持っているのでしょう。本物そっくりのニセモノを、シャレとして持ちたい気持ちも分からない事もありません。ところがこれを本物と偽って質屋に持ち込む人がいて困っています。本来ニセモノですから市場にあってはならない物で、この品は質流になっても売ることが出来ない物ですから私たちも扱う事は出来ません。また、これを本物として質屋に持ち込むことは厳密には詐欺罪にもなりかねません。真贋の鑑定は私達の仕事ですから騙される方が悪いと言えばそれまでですが、かかる被害が大きすぎるために私達も大目に見る事は決してせずに、あまりに計画的で何軒もの質屋を回っている場合は警察に届けるようにしています。
 実際「質屋のネットワーク」の項で書き込みましたが、全国の質店とEメールなどを通じて連絡を取り合っていると、同じ名前の人間が北海道から九州までニセモノの品物を持ち歩いている状況が手に取るように分かります。まだまだ情報が行きわたっていない地方の質屋さんや,閉鎖的な考えをお持ちのご年輩の方が経営している質店、あるいわ組織的なまとまりが出来ていないリサイクルショップなどに売って歩いているのかもしれません。しかし私たち横浜の質屋に関して言えば、情報網は日に日に発達してきてニセモノに対する準備は出来つつあります。
 ただ問題はニセモノを質屋に持っていって、「うまく騙すことができればラッキー。」と言った罪の意識の薄さです。たとえ軽い気持ちで持ってきても、私たちとしては警察に届けざるおえません、無用なトラブルを避けるためにも、どうかニセモノは自分で楽しむだけで、持っていらっしゃらないようにお願いいたします。





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盗品について

 私たちの商売は原則的に、どんな人が、どんな品物を持ってきても、その品物に対する正当な評価で、その金額をご融資したり買取りしたりします。ただし、その品が盗品などではなく、ご自分の物である限りです。もし私たちが盗品を質に取ってしまったら、管轄の警察署にこってり絞られた上、「質取り顛末書」など色々な書類を書かされ、品物も一時警察に提出しなければなりません。もちろん、故買とされてしまえばそれ相当の刑事罰も待っています。
 ただそれはもっともなことだと承知しているのです。盗品を買い取る店があると言うことは、窃盗の手助けというか、どろぼうをするきっかけを作ることにもなりますから、ですから私たちは昔から、
「防犯も質屋の仕事の一つだ。」
「物より人を見て商売をしろ。」
などと教わってきたのです。ただ、質屋というと、禿げ親父が格子の向こうから上目遣いでジロッと見ながら・・・というイメージを抱かれてしまい、入りにくい印象が出来てしまったのもそのためでしょう。私たちの世代の仕事として気軽に入れる明るいイメージを作ることは今の時代当然ですが、顔で笑って、やはり心の中では「盗品は取らないぞ、」「泥棒は許さないぞ。」という固い決意と細心の注意を実践していくことは当然でしょう。








network

質屋間のネットワーク

 全国に4000店ちかくある質屋は、多くの場合、地元の質屋組合に所属しています。かつて盛んだった電話金融を行うために必然的に作られた組合もありますが、広報活動や古物市場、質流れ品バザーなどの共販事業、組合員の事業資金融資制度などを整備した大規模の組合も少なくありません。また盗品発見や防犯活動のために各地の警察、公安委員会からの情報伝達を行い、加盟店間のネットワークをがっちりと組むためにも地域ごとの組合活動は不可欠です。これらの組合は各県ごとに各県組合連合会を組織し、これをまた全国質屋組合連合会という大組織でまとめおります。当店の場合横浜質屋協同組合に所属し、神奈川県質屋組合連合会の一員でもあります。こうした組織を通じてニセモノ持ち込みや強盗被害など業務上の情報が伝達されることはあります。ただこうした情報は地方組合組織内であればファクシミリや電話連絡ができますが、組合の垣根を越えた伝達は、残念ながら速報性に欠けることはいなめません。
 ところが最近、質屋業界でも若い人達の間でインターネットのEメールを使った情報伝達を行う人達が増えています。ニセモノを持ち歩いている人間がいると言えば、その品の画像を添付して、全国に一瞬に送ることによって、類似の被害を他地域で防げるようになってきました。実は当店では、そうした「質屋の情報ネットワーク」を行う二つのメーリングリストに加入し、一方のメーリングリストの管理者もやっております。






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全国質屋青年会議

 質屋のネットワークの項で書きましたが、各地域ごとにある質屋協同組合では、若手の育成のために青年部という組織を作っているところもたくさんあります。主に商品情報や古物品相場に対する勉強会を開いたり、定期的に集まって情報交換や親睦の場を作っています。また質流れ品バザーを開催している青年部もあります。そして何時の頃から他県の青年部と交流を図ろうという動きも出てきました。平成4年東京質屋組合青年部が全国の質屋組合青年部に呼びかけ、年に一回、全国の青年部会議を開こうと言うことになりました。そしてその後大阪、福岡、京都、東京、名古屋続き、平成12年神奈川県で第7回全国質屋青年会議が開かれることになりました。
 この神奈川大会では、それまで全国の青年部組織だけの会議だったものを、そうした組織に所属していなくても全国の質屋業に従事している全ての若者に範囲を広げ、本当の意味での全国質屋青年会議になりました。「質屋のネットワーク」の項で触れたEメールによるメーリングリストもこの会議以降、この神奈川大会の雰囲気を継承して作られた物です。
ちなみにこの神奈川大会の実行委員長は、この私。岩田治で〜す。








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がんばれ男の子

 お客さんが品物を持っていらっしゃると、たいていお客様の希望値段をお聞きした上で、私が査定して値段を決めるのですが、これはなるべくお客様に必要な金額だけをご融資させていただこうという親心のつもりです。お客様の希望値段と当方の査定値段が合わないとき、女性の場合ですと,
 「もう少しなんとかならない、おじさん、お願い。」
 などと粘られてしまうのが常なのですが、若い男性の場合、殆ど無言でしばらく考えた後、妥協するか、そのまま帰ってしまうことが多いようです。査定値段は賭け値なしの値段をスパッと言っているつもりですが、粘られるとぐらつくことも正直あります。ワガママを聞くのも仕事ですので、希望価格がある場合は遠慮なくおっしゃってください。ただしかなえられるとは限りませんが・・・。
 これは流質期限についても言えます。7月7日までと言って質札に書いてあればその日以降は流れてしまうという意味ではあるのですが、その前に電話で2,3日遅れるとの連絡を入れてもらえば、待てないこともないです。コンピューターで質管理をしている大きなお店ならともかく、当店はなんとかします。こうしたワガママを言うことが若い男性には出来ないようです。がんばって。大丈夫だからね。






kamera

趣味のカメラ

 現在、質屋の扱う品物で主流は宝石・貴金属・高級時計・ブランドバッグといったところでしょうか、それともう一つ、カメラや楽器など趣味の品物があります。つまりは“中古でも欲しい人がいるモノ=中古価値があるモノ=イイ質物”という公式にぴったりおさまるからなのですが・・・・・、
 もう15年ぐらい前、まだ質屋の仕事が何もわからなかった見習いの頃です。その当時最新型だったミノルタのα-7000というカメラを買い取ることになりました。相場表で基準値段を確認してスイッチを入れると、液晶板に「5.6」だの「250」だの数字が出てきました。その頃カメラについて何も知らなかった私は、お恥ずかしいことにその数字の意味が分からなかったのです。5.6は絞り、250は250分の1秒のシャッター速度であることは当たり前ですが、カメラに興味がなければしょうがないですね、でも質屋はそれではいけないと社長(親父)から叱られ、自分でも悔しさもあってカメラについて徹底的に調べました。カメラ関係の本を読みあさり、「日本カメラ」や「朝日カメラ」を毎月購読し、なるべく古いカメラを使い潰しました。キャノンのA-1、AE-1プログラム、ニコンのF2、F501、オリンパスOM3、ライカR3などなど。使い潰したというのはウソですね、飽きたカメラは質流れ品のルートで売却して次のカメラの購入代金に充てました。ちょうど初めての子供が生まれたときで、まだ若く美しかった?女房もいて被写体には困りませんでしたが、それでも休みの日にはリンホフの大判やフジの645などカメラ機材を積んで一人で撮影旅行に行ったこともありました。子供が歩き出すとピントを合わせるのが難しくなり、オートフォーカス・カメラに換え、イオス10やα5700を使いましたが、やはりマニュアルフォーカスが忘れられず、OM3(今までで使ったカメラで最高です。小型で、)とコンタックスT−VSをずっと使い続けています。不思議なもので自分がカメラに興味を持ち出すとカメラ趣味のお客さんも増えます。
カメラについての知識はまだまだマニアのお客さんの方が豊富な場合もありますが、大切なカメラを質屋に持ってくるお客さんの気持ちは分かるようになりました。







pasokon

パソコンについて

 カメラの話では無知をさらけ出してしまいましたが、パソコンについてはちょっと一言あるのです。 なんといっても初めて使い始めたパソコンは、黎明期の名機NECのPC−8800ですから。ディスプレーの代わりに質流れのテレビをつけて、当時創刊されたばかりの雑誌アスキーに掲載されていたベーシックのゲームプログラムを入力しては遊んでいました。 ところがその後、別の会社に就職してからパソコンとは縁遠い生活になり、質屋を継いでのち、質取りしたマッキントッシュ・カラークラッシックUを試そうとして現れた画面に驚き、またもやのめり込んでしまいました。MS−DOS/5.0、ウィンドウズ3.1以降のパソコンなら何でも分かります。
 ところがところが、質屋にとってはカメラと違って古いマシンの知識があってもなんにもならないのです。 古いパソコンはお金にならないからです。パソコンほど値落ちする商品はないということは殆どの方が御存知と思います。しかもパソコンを再販する場合、機械的な付属品の他にウィンドウズやリカバリーCD−ROMが必要で、テストも難しいためにパソコンを取り扱わない質店は多いと思います。当店ではお客様によく説明した上で、動作確認をした後に付属品と一緒に扱っていますが、昨年春に40万円で買った品が昨年秋に22万円だったのに、今年の秋には6万円しか値段が付かないというのはどうも納得がいかないようです。暴利を貪っているわけではないのですが、分かってください。


“物欲” MONO

 私が生まれたのは昭和33年、子供の頃からマンガやテレビ、SF映画に出てくる最新式の秘密兵器やメカに興味津々の少年時代を送ってきました。成長と共に新幹線の開通やアポロの月着陸などがあって、最新のテクノロジーに対する尊敬はほとんど宗教のように脳細胞に植え付けられてきました。身の回りに目をやれば、カラーテレビ、ビデオ、CDプレーヤー、ファミコン、パソコン、携帯電話と次から次へと送り出されるハイテク製品に夢中になったものです。一方で昔ながらのクラフトマンシップに裏打ちされた機械式時計や手作りバッグへの尊敬も忘れずに、こういう物に対する愛着は物欲となって財産を食いつぶすこととなるのでしょうけど・・・、まあ、こういう商売してると、お客さんの物に対する愛着を理解することも仕事ですからね。そうしないとちゃんとした値段を付けることも出来ないし。
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